まみずくらげ・有性生殖編
(Craspedacusta sowerbyi)

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Last update: 99/11/27
two cells stage

2細胞期がふたつ、未受精卵がふたつ見える(落射照明)

クラゲの生殖

1999年の10月下旬から約一月間、まみずくらげを飼育しました(99/11/24: もうヨレヨレなれどオスメス各1匹まだ飼育中)。みんなミカワヤさんにいただいたやつです。メスとオス二匹ずつ。メスはミカワヤさんが水槽中のポリプから大きくしたもの、オスは名古屋市内で採取された野生ものです。

前のクラゲ記事「まみずくらげ」では、特にポリプとフラスチュールのことを書きました。今回はそこで「別のおはなし」と書いたクラゲの有性生殖について書きたいと思います。

life cycle

でも、実はマミズクラゲでは、普通オスとメスは同じ場所で同時に見つかりません。 もっと徹底的に調べれば見つかるのでは、などとも考えられますが、 実際に野外での有性生殖は普通ない、のかもしれません。

とはいえ、やはり有性生殖は重要です。 集団の遺伝的多様性を高める源のひとつですし、卵からの発生の過程は生き物を理解する上で大事な情報です。興味を持っていただくとうれしいです。



たまご

unfertilized eggs

左の写真がマミズクラゲ C. sowerbyi の卵です。10月20日に放卵、直径0.1mmほど。 飼育していたびんの底に沈んでいたのを小皿にとりました。

この写真のように、いろんな卵があります。 一応媒精は試みたのですが、みんな未受精だと思います。 この時、卵割は観察できませんでした。

赤い星印 * をつけた3つの卵が正常で、あとのは発生不能だと思います。これは卵割を観察した後での感想。なんでこんなにいろいろあるのかは不明。



卵割!

一方、精子は全く不明でした。人工授精も不調。 ミカワヤさんは人工授精/受精に成功していて、発生も観察されていたのですが、 私はあきらめて、オスメスを同居させることにしました。 これは発生、特にその初期の観察にはあまりいい方法ではありません。 実際私は受精の観察はできませんでした。

でも全く幸運なことに、1999年10月27日深夜近く、2細胞期の胚をふたつ発見! 胚はその後も発生を続けたので、朝まで約5分ごとに写真で記録しました。 ここにそのうちのいくつかを示します。

23:54
23:54
00:46
00:46
01:53
01:53
02:38
02:38
03:28
03:28
16:08
16:08 (左は未受精卵).
写真では発生中の胚が二つ見えます (最後はひとつ)。表示されてる数字は撮影時刻。 アニメーションもあります each about 200KB GIF, 100x100 pixels)。これを見ていただくと、特に分裂してるときに細胞の配置が乱れるのがわかります。
  1. (23:54) 胚は2細胞期。特徴的な形ですが、これはヒドラやカミクラゲでも報告されています。 受精膜のようなのが見えます(右の胚など見てください)。でもマミズクラゲの属するヒドロゾアでは受精膜がない、ということなので?!なのです。でもウニの受精膜とはちょっと違う感じではありますが。
  2. (00:46) 4細胞期。細胞の配置に二通りあるようです。テトラポッドのような四面体(左)と平面(右)。どちらが先ということはないようです。
  3. (01:53) 多分8細胞期。細胞の配置はきちんとしていません。
  4. (02:38) 16細胞期だと思います。細胞数は数えられず。
  5. (03:28) 32細胞期?左の胚の形が変ですが、後で丸く戻りました。
  6. (16:18) 卵割はすでに終わっています。左の丸いのは未受精卵、右が胚(胞胚?嚢胚?)。 区別ができない位すごく似ています。 胚は後で泳ぎはじめるのですが、まだ動いていません。

この後も放卵やプラヌラは何度か見られましたが、卵割を観察できたのはこの時だけでした。


プラヌラ (Planula)

creeping planula animation frustule

プラヌラ(左)とフラスチュール(右)
(同倍率)



胚は卵割のあと泳ぎはじめます。 小さな円を描いて泳いでいる丸い胚を観察できました。 この遊泳はすぐ終わります(文献では24時間程度とあるが、今回はっきり追跡できず)。

そのあと細長くなり、皿の底などを這い回りはじめます。 プラヌラ(planula)という用語はこの遊泳・這い回りをして、ポリプになるまでの段階に用いられているようです。

左のアニメーションは皿の底を這い回るプラヌラです。撮影間隔10分、全部で80分。 這い回る速さは場合によっていろいろあるようです。

このアニメーション、どこかで見た覚えがありませんか? そう、前の記事「まみずくらげ」で示した「フラスチュール」の動きと似ています。 ポリプからできるフラスチュールはプラヌラに形も動きもよく似ています。 右の写真はプラヌラではなくてフラスチュールです

しかし、プラヌラとフラスチュールはいくつかの点で違うそうです。 そもそも、ご覧の通り、フラスチュールの方が全然大きいです。 上の写真のやつは体長0.95mmもあります。



プラヌラからの小さなポリプ

a polyp from planula mouth of a mature polyp

プラヌラからの小さなポリプ(左)とフラスチュールからの成熟したポリプ(右)

数日して、プラヌラからいくつか小さなポリプができました。みんなすごく小さいです。 小さなポリプの拡大図もあります。(明視野: 20KB)。 なお、這い回るプラヌラ、フラスチュール、二つのポリプ、の4枚の写真の倍率はみな同じです。

小さなポリプの口の直径は約 0.1mmしかありません! 連中は何を食べてるんでしょうか?原生動物? 最近、この小さなポリプにエサをあげることに一応ですが成功しました。 食べたのはヒルガタワムシの類です。 アニメーションも作ってみました(25min分、18コマ: 59KB GIF)。 この種の「自然発生」してくるもので大きくなってくれないかな、と現在思ってるところです。



謝辞:

ミカワヤさん及び"jfish-ML"のメンバ各位、 Wim van Egmond さんと Dave Walker さんから今回も励ましと援助を頂きました。ここに記して感謝いたします。


参考:

ここではマミズクラゲの有性生殖に関する記述のある論文をふたつ紹介しておきます。他によいのをご存知でしたらぜひ教えてください。

また、マミズクラゲ一般についての参考サイトは私の前の記事「まみずくらげ」からリンクしてあります。どうぞごらんください。

まみずくらげ:目次

撮影: 99/10/21, 27, 28, 11/08, 22