今年の1月某日、ナンキンハゼの樹皮に謎の付着物を発見。場所は東京都葛飾区内某所。かなり古くて目立たないながら、長さ1.5cm、幅1cm位で結構大きい。形はわりと平たいつぼ形で、丸い口が印象的。これは生物が作ったのは間違いないだろう、とは思いましたが、正体はなかなか判明せず。ようやく今回わかったのでご報告します。
この「壷」、材質はちょっとパリパリした膜のような感じで、全体はつるっとしています。古いために、左の写真のように一部破れています。中には特別なものはなくてからっぽ。数が結構あったので、たぶん作ったのは昆虫?…この口から出て行ったに違いない。でも、蛹?卵?それとも別のもの?
こういう時はWebを検索しようにも、キーワードに困ります。「イラガ」にたどりついたのは、ほとんど偶然というのが真相です。顕微鏡で観察して、内側が細い糸状のものでおおわれていることがわかってからは、もう執念で「蛹」関係を当たりましたけど。
正確に言うと、この壺、蛹ではなくて繭(まゆ: cocoon)ですね。中に蛹が入っていてそれを保護するので「繭」。わかってみれば、予想通りかなり有名なものらしい。中の蛹を釣りえさに使ったりもするそうです。
イラガの仲間(イラガ科: Limacodidae)はどれもこういう形の繭をつくるようで、英語では、このグループを "Cup Moths" というそうです。 日本でも、地方の俗名で「スズメノタゴ」「スズメノショウベンタゴ」などの名前があるようです。「タゴ」は「担桶」と書き、水や肥料を入れて天秤棒でかつぐようなオケのことだそうです。東西違っても、考えることは似てますね。
ただ、イラガ科の中にもいろいろな種類があって、「壷」もいろいろです。日本在来の「イラガ」Monema flavescens の壷はオシャレなツートンカラーの模様入り。形も丸く、今回のとはちょっと印象が違います。「スズメノタマゴ」の名前もあるそうです。
今回の「ヒロヘリアオイラガ」 Parasa lepida は漢字だと、広縁青刺蛾、となるんでしょうか。1971年改訂の保育社の原色日本蛾類図鑑(上)の「いらが科」にはそれらしいものはありません。また、1997年の平凡社日本動物大百科(9巻 p.102)には、九州で発見されてから,近畿圏,東海地方をへて現在では千葉県,東京都のおもに都市部に分布を拡大して各種の樹木に加害している とあります。壷はイマイチ地味ですが、幼虫はなかなか派手ですね。下記リンクをご参照ください。
この繭、他の木の幹にもついていましたが、ナンキンハゼ(これを食べていたようです)の幹やそれを支えていた支柱についていたものが一番多いです。また、地上10cmくらいのコンクリートの壁面や、地面のすぐそばで繭を作っていたものもありました。高いところでは2.5mくらいのところにも。どういうルートで移動したんでしょうね。下の写真、マウスをのせると拡大します。
しかし、これだけ沢山の繭の殻がいまだに残っているということは、当時、かなり騒ぎがあったんじゃないかと思います。「イラガ」の「イラ」は「イラクサ」などと同じで、皮膚を刺激する(痛い)ことを意味します。いわゆる毒虫です。私はやられたことがないので本当のところは分かりませんが、こいつはかなり強烈らしいですから。