最近、カビの話題が多いですが、今回はバナナの皮をシャーレに入れて放置したものに発生したブツ。多分、ありふれたものなのでしょうが、「へーこんなのもあるんだ」とちょっと驚きました。左の写真です。
実際の高さは約3mmで、一見キノコみたいに見えます。でもこうして拡大すると、やっぱりカビ?
これは何だろう?と調べてみると、どうも「分生子柄束(束状体): Synnema」というもののようですね。岩波生物学辞典(第4版)によれば、
多数の分生子柄が集まって密着し,ときに融着した長い束状の構造物.束の頂部あるいは頂部と側部に分生子を生じる.
ということですが、要するに、カビの菌糸が沢山集まって立ち上がり、その先端に胞子ができる構造です。
なお、キノコも菌糸が沢山集まってできていて、そこに胞子をつけますが、キノコの胞子は有性生殖をしてできます。上の「分生子」というのは、減数分裂なしでできる胞子なので、違います。
しかし、キノコというのはそもそも日常用語です。生物学的に特定の分類群を指すものでないので、有性生殖でできる胞子でなく、分生子をつけるものを「キノコ」とすることもあるようです(例えば、冬虫夏草の「ハナサナギタケ」など)。
それで、保育社の「検索入門 きのこ図鑑」(本郷、上田、伊沢 1985)では、キノコを「これまでの習慣によって言いあらわすと」ということで、次のように説明しています(p. 186)。
「担子菌類や子のう菌類(まれに不完全菌類)が、胞子(ややあいまいな語であるが)を生産するためにつくった、肉眼で見える程度の大きさの器官である。子実体ともいう」
そうすると、肉眼で見えるこの写真も「キノコ」って言ってもいいのかも…?ちょっと小さすぎ?
ところでこのカビ、どんなグループに属するものか不明です。アオカビってこんなのでしたっけ?お心当たりのある方、どうぞご教示下さい。一応、胞子(分生子)の写真もあげておきます。
2003/05/25 追記
今回も珪素鳥さんにご教示いただきました。この辺のこと、本で読んでも分かりにくかったのですが、「なーるほど」という感じです。以下に要点をご紹介します。
不完全菌(有性生殖が不明の菌類)の分類は、かつては 分生子の形、細胞数、色、配置など を重視していた(Saccardo の体系)。しかしその後、日本の椿らによって、分生子形成の様式 が重要視されるようになった。例えば、
それから、アオカビにも分生子柄をつくるものがある、と教えていただきました。Penicillium claviforme という種の写真が「ウェブスター菌類概論」にあるそうです。 これ、google してみたら、小さな写真が出てましたので、メモしておきます。
http://sorrel.humboldt.edu/~dll2/358/penicill/penicill.html
ほかにもこの手のアオカビ (synnematous Penicillium species) があるようですので、どうもこれは アオカビ Penicillium でいいような感じですね。
珪素鳥さん、ホントにいろいろありがとうございました。