Last update: 1999/07/01
以前「二重らせん」をやりましたが、今度は三重です。ブツは、タイトルにあるように、コケの「弾糸」というやつです(今回はいたずらなし)。「弾糸」というのは、ゼニゴケの記事の時も紹介しましたが、コケ植物のうちの苔類(たいるい)とツノゴケ類にあるものです。(蘚類にはないらしい)。
まず、左の写真を見てください。なんか「もやし」みたいのがにょきにょきはえてるでしょう? これは何だ?、っていうと…
それがこのもやしみたいなやつ。本体は、草の葉っぱとか他のコケの下に隠れていますのでご注意。
この「もやし」のてっぺんに胞子ができます。それで「胞子体」という(もちろん、もやしみたいな胞子体ばかりではありません。念のため)。そして苔類などでは、胞子と共に「弾糸」というものができるというわけ。
左の写真がもやしの先端。丸いのが胞子のう。ケバケバになっているのは、熟して胞子を放出したあと。このケバケバが「弾糸」の束。また、良く見ると下のほうに裂けた残りが見えます(4つに分かれると書いてありますが、なるほどそんな感じ)
そして右の写真は、♀の配偶体から胞子体(もやし)が生えてきているところ。これ見ると、ゼニゴケとそっくり。いろいろ見てみるとこのコケ、「ホソバミズゼニゴケ」(Pellia endiviaefolia)ってやつじゃないかと思います。
余談ですが、このコケ、水槽に沈めて鑑賞用に、って人が最近はいるようですね(あまりポピュラーじゃないですが)。
さて、弾糸に戻りますが、10xのレンズでこんなふうに(左)見えます。スライドグラスの上に置いて息をかけたりすると湿度によって動くのが見えます。この動きが胞子の散布を助けているのでは、という話あり(長田武正 カラー自然ガイド・こけの世界 保育社S.49 p.105)。
40xのレンズを使ってみると、はじめに出したように三重のらせんが見えました。ただし、右のように、二重らせんになっているのもあります。このコケ、図鑑では「3本」とはっきり書いてあるので、別物なのかもしれません。
また、胞子も探したのですが、みつかりませんでした。
しかし、このらせん、どうやってできるんですかね?
今日、山で胞子体をみつけ、気になったので数本フィルムケースに入れて持ち帰りました。ケースのなかに飛び散っていたケバケバを顕微鏡で見てみたら、「三重らせん」。ちょうどコラーゲンの話をいろいろ聞いていたので、こりゃ面白いや、とまとめてみました。
コラーゲンは化粧品その他で随分有名になりましたが、非常に強い繊維状のタンパク質で、体の中の骨や皮膚など、強さが必要ないろいろな場所で活躍している物質です。動物体中で最も多くあるタンパクとか。で、この構造が、いわば「三重らせん」。三本のポリぺプチドが紐をなうように、らせん状になっているんだそうです。
DNAの構造もポーリングが三本のらせんで考えてたとか、そういう話もありましたですね。
あわてて追加
タンパク質データベースからデータを取ってきて、コラーゲンの3D模型を見てみたら、なんだか随分とゆるい螺旋ですね(例えば1a89)。3本でも全然イメージ違う。たまたまそういうのを見ただけ?いろんな条件やらで形が変わるのでしょうからね(collagenでひいたら69ヒットした)。
ところで、データベースのアドレスが変わってました。Research Collaboratory for Structural Bioinformatics (RCSB)ってところが新しく管理してるようです。この手のデータベースとそこのデータの使い方をシロート向けに簡単に説明しているサイトないかなぁ?(宿題か?)
1999/07/01
弾糸についてまとめている資料を見つけましたので、要点のみ書いておきます。弾糸のできかたについても、Haupt(1921)の観察が引用されています。三好教夫 苔類(コケ植物)の弾糸 遺伝28(7) 73-78 (1974)
弾糸とよばれる胞子の散布器官は、次の3つの分類群で知られている。
- トクサ属(シダ植物)
- 苔類(コケ植物)
- 真正粘菌類(変形菌)
トクサでは胞子の外膜、真正粘菌では分泌物を起源としており、苔類の弾糸とは異なる。
以下は苔類の弾糸について。
- 胞子が熟するのは、大部分の苔類では春(3から6月)。
- 胞原組織が胞子母細胞と弾糸母細胞とになる。両者の割合はものによって違い、1:1(ジンガサゴケ)、3:1(トサカゴケ)、32:1(ゼニゴケ)などがある。
- 未成熟の弾糸は、胞子母細胞への栄養供給の役割も果たす。
- ウキゴケ属、イチョウウキゴケ属など、弾糸をもたない苔類もある(いずれもゼニゴケ類)。
- ツノゴケ類のツノゴケ属とニワツノゴケ属の弾糸は多細胞であり「偽弾糸」と呼ばれる(他の属については弾糸?)。
- 弾糸の長さは一般に100から300um(マキノゴケなどは1000umに及ぶ)。
- さく胞内の軸柱が弾糸状になった「弾糸柄」をもつものもある。
例:ミズゼニゴケ さく胞裂開後、基部に直立して付着
上のがミズゼニゴケとすると、写真は「弾糸柄」なのかも。まじると見分けにくいとのことです。
撮影: (d) 1999/04/05