Last update: 2003/06/04
http://www2u.biglobe.ne.jp/~gen-yu/urushi.html (連絡先:gen-yu@mtc.biglobe.ne.jp )
先日、(ハゼノキによる)ウルシかぶれを体験してしまいました。ごく一般的な事例ではありますが、Webにもあまり具体的な話は出ていないようなので、ここに記録します。また、今回くやしまぎれに勉強した情報をいくつか掲載しています。参考になれば幸いです。
このページを書くに当たり、別記の文献が大変参考になりました。筆者の方々にあつく御礼申しあげます。
はじめに
経過
ウルシかぶれのしくみ
原因物質
ウルシかぶれを起こすもの
ウルシ以外の植物によるかぶれ
参考資料
- 今、かぶれている方
- 自分でなんとかなると思わず、すぐに皮膚科の医者に行ってください。なるべく早く専門家の手当てを受けるのが何よりです。
- まだウルシかぶれの経験がない方
- 確かにかぶれない体質の方もいるようですが、単にラッキーな場合が多いようです。一度かぶれるとかぶれが治った後も、いろいろ面倒なことになります。なるべくかぶれないように注意してください。
- 過去にウルシかぶれをやった方
- 馬鹿な奴、と笑ってやってください!
観察会などの指導をする方は、くれぐれも事故のないよう注意してくださいね。
知らないで無謀なことをやってしまった、 ということで、実にどうもお恥かしい話ですが、以下に経過を示します。 ハゼノキでウルシかぶれが起こる、という知識はあったものの、今までかぶれたことはない、という油断と、ウルシかぶれがどの程度危険なのか実際に知らなかった、というのがまずかったです。
- 99/07/22
- 午後、公園のハゼノキに接触(葉をちぎる、実をつぶす、などする)
- 99/07/23
- 手首付近に発疹があるのに気づく。夜寝るときいやに顔がかゆい。
- 99/07/24
- 朝起きると顔がひどくはれている。驚いてかかりつけの内科医へ。 ハゼノキも思い出すが、症状が激しいのでまだ医者も半信半疑。夜、かなり強いかゆみ。
- 99/07/25
- 顔のはれが昨日より激しい。左目ほとんど開かず。手も発疹と腫れがひどい。改めてかぶれと判断され、内服薬(ステロイド)3錠/日。午後には左目も少し開き、昨日と同程度に戻る。その後、紹介された皮膚科医へ。塗り薬1回/3時間。
- 99/07/26
- 顔の腫れはほぼおさまるが、手の腫れと発疹は続く。かゆみはあまりないが、握ると違和感あり(特に右手)。
- 99/07/27
- 内服薬2錠/日に、塗り薬も変更。
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- 99/07/29
- 内服薬1錠/日になる。手の発疹、違和感少なくなる。買い物で荷物を持つ。
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- 99/07/31
- 再び手のかゆみと腫れ(特に指。発疹はない)。
- 99/08/01
- 内服薬1/2錠/日になる。部屋のそうじ。
- 99/08/02
- 手のかゆみと腫れ。皮膚科受診するが、基本的によくなっているので、特に悪化しなければもう来なくてもよい、とのこと。しばらくはなるべく手を使わないようにし、場合によって外用薬をつけるよう指示。
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- 99/08/07
- その後、結構腫れやかゆみがあったが、ようやくほぼ平常に戻った感じ。
接触してもすぐには症状が出ないというのが、最初にとまどったところです。接触から2日半位たった時が、最もひどい状態でした。発熱などの全身症状や、痛みは感じませんでしたが、治療が遅れるとあったかも。上に書いた他、注射も何回かしてもらいました。
一番目立った症状は顔の腫れですが、これは比較的はやくおさまりました。右手(甲から指)が直接接触したこともあり、最後まで症状が残っています。
非常に暑い日だったので、トイレに行って用を足した後に顔を水で洗った記憶があり、この時に顔をやられたのかも。陰部にもわずかに症状が出ました。しかし、普通に木綿のスポーツシャツを着ていて、直接接触していない肩や胸の上部もやられているので、やはり揮発成分かもしれません。 汗をかいていたのも関係?
以下、非常におおざっぱな話ですので、そのつもりでご覧ください。
植物によるかぶれは、ウルシ以外にもいろいろあるようですが、ウルシの場合、アレルギー性接触皮膚炎といわれるものです。
アレルギーというのは、体に入ってきた異物を排除する「免疫」が体に悪影響をもたらす反応の総称です。おなじみ花粉症などもアレルギーです。つまり、花粉は確かに異物ではありますが、普通は特に排除する必要もなく無視されます。これを排除しようと体が過剰反応をし、その際不快な症状が出るというのがアレルギーです。
もちろん、はじめは無視してる訳です。ところがその「異物」が繰り返し体に入ってくるとか、非常に大量であるとかすると、これに反応するようになることがあります(「感作」されるというらしい)。もっとも、いくら接触しても大丈夫な「異物」もある訳だし、どうしてなの?というのは大問題なのですが、省略します(いろいろ分かってきているようですが、大変複雑です。正直に言って、説明できるだけ理解できていません)。
ウルシに戻りますと、花粉症の花粉と同じで、ウルシそのものが毒性をもつのではないのです。ウルシに対して過剰反応をする、その結果がかぶれとなって出てくる訳です。
ただ、花粉症と違うのは、花粉症は花粉に対して体がつくったIgEと呼ばれる物質(抗体)がアレルギー反応の主役(I 型のアレルギー)なのに対し、ウルシかぶれは T細胞とよばれるものが主役(IV 型のアレルギー)であることです。このこともあるのか、ウルシに触れてから症状が出るまで1-2日程度時間がかかります(遅延型反応)。
しかしアレルギーには変わりありませんから、やっかいなことに、一度かぶれるとその後は以前よりかぶれやすくなる傾向があるようです。花粉症でも、一度なると以前はなんでもなかった量の花粉でも症状が出る、というのと同じです。本当にかぶれない人がいる可能性もありますが、十分な刺激があればかぶれちゃう人の方が多いのではないかと思います。これまで大丈夫だったと言って、油断しない方がよいと思います。
私はマンゴー(ウルシ科)食べても平気だったんだけど、もうだめかぁ(と思うと少々寂しい)。
その名もウルシオール(Urushiol)。ベンゼン環に不飽和の C15側鎖がついた有機化合物で、いくつかの種類があるそうです。主にウルシ属の植物体を傷つけた時に出る乳液に入っていますが、イチョウの種皮(いわゆる果肉)やヤマモガシ科のシノブノキ属(Grevillea:ほとんどがオーストラリア南西部に自生)にも似た物質が含まれます。従って、
「ウルシにかぶれた人はギンナンにも注意」
だしその逆も正しいことになります。なお、イチョウの葉にも微量ながら同様の物質があるそうなので、注意するにこしたことはありません。
また、ウルシの若い芽をタラの芽と間違えて(ゆでたり天ぷらにして)食べてかぶれる事例も多い事から見て、加熱しても毒性(感作性)はなくならないようです。
この項は主に、指田豊「ウルシ科植物の簡易識別法」によります。
日本の野外で問題になるのはまず、ウルシ属 Rhus です。毒性(感作性)の順に並べると、以下のようになるとのこと。
ウルシ | R. verniciflua | 1 |
ツタウルシ | R. ambigua | 2 |
ヤマハゼ | R. sylvestris | 3 |
ハゼノキ(リュウキュウハゼ) | R. succedanea | 3 |
ヤマウルシ | R. trichocarpa | 4 |
ヌルデ(フシノキ) | R. javanica | *下記参照 |
右の写真は、私がやっちゃったハゼノキですが、上の表のうち、ツタウルシ以外はみなこのような葉(大形の奇数羽状複葉)をしています。ただ、同じような葉をもつ無害のもの(ニガキ科のニワウルシ、やムクロジ科のムクロジその他)が沢山あります。詳しくは上記文献をご覧ください。
この中でウルシとツタウルシは近づくだけでかぶれる場合もあるとのことで、特に注意。ウルシはヤマウルシとよく似ているが大形で、多くは産地に栽培されていて野生のものはあまりないとのこと。
ツタウルシはツル性で小葉が3つあり、ツタに似るが、枝を水平に張り出すのが特徴。 ちなみに、北米にはその名も"Poison ivy"(R. radicans)といわれる非常に毒性の強いツタウルシがあり、山火事の消防士がこの煙でかぶれるというから、ほんとに毒ガス並み。
ハゼノキは(他のウルシ類もそうですが)紅葉が美しいので、公園などにも植えられています。「ひどくはかぶれない」としている本もありますが、ウソです!(接触の仕方によるのでしょうが)
ヤマウルシはこれらに比べればそれほど毒性は強くないが、株ごとに毒性の強さが違うそうです。乳液が黒くなる速さが速いほど毒性が強いと判断でき、ヌルデなどは乳液を1日おいても黒くはならないらしいです。
* ヌルデも原因物質を全く含まないわけではないようです。他の五種に比べると「無害」と言っても良い程度ながら、体質や条件によっては「かぶれた」という話もあります。敏感な方は念のため注意した方がよいでしょう(2002/07/16 追記)。
野生のウルシ科のもうひとつの属、チャンチンモドキ属(Choerospondias)は、子供が果実を食べることもあり**、更に安全といえるようです。
** 表現を訂正しました。日本では九州にまれに自生すると言われる植物です (2003/06/04)。
まず、果物のマンゴー(mango: Mangifera indica)がウルシ科で、有毒成分を含みます。塗料のカシューナッツオイル(Anacardium occidentale の果皮から作る:食用のカシューナッツは無害)、輸入木材のレンガス(Gluta spp.)等も同様です。
また、漆塗りの製品は塗料が完全に重合してしまえば無害ですが、製作後2年以内だと危ないようです。書類のとじひも(先を漆で固める)など、思わぬ所に漆が使われている場合があります。
更に、上にのべたように、ウルシ科以外にもウルシかぶれに注意が必要なものもあります。
「野外における危険な生物」に載っているものではイラクサ位ですが、これはアレルギー性ではなく、刺毛の中にある「一時刺激物質」とよばれるものが注入されて起こる反応です。ちなみにこの物質は以前言われていた蟻酸ではなく、ヒスタミンなどだそうです。
しかし「皮膚炎をおこす植物の図鑑」には、実際に問題が起きた植物が驚くほど沢山あげられています(アレルギー性の方が多い)。ただ、その多くはその植物と濃厚な接触を続ける特定の職業(生花業など)を中心に見られるもののようです。従って、一般の野外活動の際にはそれほど気にする必要はない感じもしますので、ここでは触れません。ひとつあげるとすると、サクラソウ(特に園芸種のPrimula obconica)で、これはかなり症例も多いようです。腺毛の先端の細胞に分泌物が含まれています。
皮膚炎を起こす植物が特に多いとされる科を以下にあげておきます。意外に思われるものもあると思います。詳しくは参考資料をごらんください。
イラクサ科、ウルシ科、キク科、キンポウゲ科、サクラソウ科、サトイモ科、シソ科、ジンチョウゲ科、セリ科、トウダイグサ科、(以下材木)マメ科、ウルシ科、センダン科、ノウゼンカズラ科、クスノキ科、ヒノキ科、カキノキ科、マツ科、クワ科など
公開: 1999/08/02