Last update: 2000/12/29
広い意味でのケンミジンコ類、Copepoda を日本語では「橈脚類」と言います。Copepoda の "Cope" は "handle" とか "oar" の意味だそうです。つまり「カイアシ類」と読めばいいのですが、音読みの場合、いくつか読み方があるようです。
「日本淡水生物学」には「トウキャクルイ」とあります。(2000/11/14: 「不撓不屈:フトウフクツ」と同じ読み方ですね、って書いてたのですが、こっちは手偏ですね。うっかりしてました!)。ところが、あることから「ジョウキャクルイ」という読みがあるのを知りました。
調べてみると、岩波生物学辞典(4版)も、中山書店の教科書も「ジョウ」になっています。手元の漢和辞典(角川新字源)を調べると、
と出ているので、「こりゃまずいや」と、あわてて「トウキャクルイ」を「ジョウキャクルイ」に訂正しました。
ところが、これを見た方から
昔は「橈」の字は「ダウ」(=ドウ)という読み方しかなく、それが訛って「ジョウ、トウ」などの音が生まれたそうです。
というご指摘をいただきました(藤田さん、大感謝!)。そこで「諸橋大漢和」を見たところ、なんと、橈 (15521)には「ジョウ」という読みは出ていませんでした。更に、ズバリ「橈脚類」の解説があり、「ダウキャクルヰ」と読み方が出ていました! せっかくなので、解説を以下に引用(一部字体変更)。
【橈脚類】ダウキャクルヰ 甲殻類の一目。體は小さくて、稍々長く、頭・胸・腹の三部分に分かれ、各々五環節から成る。胸部に分岐した五對の肢が有り、これを橈脚と称し、これで遊泳する。鹹・淡両水に棲息し、魚類の餌食となって水産上の効果甚だ大である。
こうなると決定的だな、という感じですね。何しろあの超漢和辞典、諸橋大漢和です。
昭和10年発行の「岩波動物學辭典」でも、ドウキャクルイはすでになく、トウキャクルイを引くと「ジョウキャクルイを見ろ」という風になっています。ですからまずドウがトウになまってしまい、これが「Isopoda 等脚類」と音が同じなのでジョウに変えよう、というようなこともあったのではないかと想像します。ちなみに、Isopoda はダンゴムシなんかがそうですね。
まぁ、実際問題としてはどうでもいいような事ですけど、野次馬としては、こういう話はとても面白いです。もっと調べるといろいろありそうなので、また何か分かったら報告したいと思います。
しかし、小さい漢和辞典じゃ分からないなー。勉強になりました。なお、諸橋大漢和にもローマ字で "jao" というのも一応書いてはあることを付け加えておきます。
2000/12/28 追記
と書いていたところ、先日、「ギョウキャクルイ」としてる本もある、というメールをいただきました(SATOさんありがとうございました)。
たとえば、北隆館の日本動物図鑑(中)の索引を見ると、昭和26年の第4版では「ジョウキャク」になっている(「シ」のところにある)が、第8版では「ギョウキャク」(「キ」のところにある)とのことです。
また、小久保清治博士(「プランクトン分類学」厚生閣、S.42、増訂版、「プランクトン実験法」恒星社厚生閣、S.46、改定増補4版)や、谷田専治博士(「新版水産動物学」、恒星社厚生閣、S.59、9版)は「ギョウキャク」としているようです。ですので、北隆館の読み方が変わったのは、小久保博士の影響なんではないか、というのがSATOさんの説。
うーん、でもこれは寄生虫の「ギョウチュウ」なんかからの間違えじゃないかなー (ちなみに「蟯」です、虫偏だけどツクリは同じ、ジョウとも読むらしい)。それとも何かまた別の根拠があるんだろうか?真相はいかに…
公開: 2000/11/02