ツリガネムシの運動

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Last update: 2008/03/29

Vorticella sp.


最近発掘された、大昔の8mmビデオの中の一カット。 これを撮り直すのは案外面倒かも、ということでここに公開。

モノは「ツリガネムシ」です。これが首(というか柄:stalk)を伸び縮みさせる様子。早回しその他はしていません(「静止画」とかあるのは、当時使っていたビデオプリンタの表示ですので気にしないでください)。

ご覧の通り、じわじわと伸びていって、瞬間的にピョンと縮む、という運動が面白いです。 頭も同時に縮めています。 柄が縮むのは本当に速くて、下の4枚は上のビデオの一部をコマ送りにしたものですが、途中はほとんどわかりません。絵がブレてるだけじゃなくて、残像みたいなのも写ってます。


この運動、生物としてはかなり変わっているので、少々解説します。 stalk expanded

生物の運動といってもいろいろありますが、代表的なのは筋肉の運動。これに関係するのがアクチンとミオシンというタンパク質。筋肉以外でも(原形質流動とか細胞質分裂とか)このタンパク質がいろいろ働いている運動があります。これが1番目。

もうひとつ違うタイプの運動が、鞭毛とか繊毛。精子やゾウリムシが泳ぐ時に使ってるアレですが、これにはチュブリンとダイニンというタンパク質が関係していて、これが2番目。これも染色体を動かす時など、生物の世界には広く見られる運動のしくみです。

そして、このツリガネムシの柄の運動はこのどちらでもない!更に面白いのは、この運動は「エネルギーの通貨」ATPを(直接的には)必要としないというところです。

ATP:アデノシン三リン酸というのは、「生物は何をするにもエネルギー物質ATPがなくっちゃダメ」、というふうに教えられたりするアレでして、「えぇー、ATPなしで動くなんてのもアリなのか!」と初めて知った時には結構驚きました(もっとも、原核生物の鞭毛もATPなしで動くらしいですね…しくみは別らしいですが)。

それじゃぁどうやって動くのかというと、ポイントはカルシウムイオン。右の図は柄が伸びきったところですが、太い線のまわりに細い線がらせん状にあるのがわかります(矢印)。これが「スパズモネーム:spasmoneme 」(写真ではスパズモネームは裸であるように見えますが、もちろんそうではありません。このまわりに細胞膜があって、細胞はスパズモソームを包んで細長く伸びているわけです)。

細胞内にカルシウムイオンが放出されると、これが瞬間的に縮む。縮んだ後、細胞の中のカルシウムイオンが回収されるにしたがって、徐々に伸びていく、ということなんだそうです。

伸びるときはカルシウムイオンの回収をするのに膜のポンプを動かす必要があります(からATPも必要でしょう)が、なんと、縮む時には酵素も必要ない!のだそうです。うーむ。


上に書いたのは下記文献からイイカゲンにまとめた話ですので、ご興味お持ちの方は直接お読みくださることをお勧めします。

ツリガネムシの分類も簡単にまとめてあったので、ついでにご紹介して終わりにします。

A. 一匹ずつ独立している  … ボルチケラ (Vorticella)
B. 枝分かれしてコロニーをつくる
  1. 柄はばらばらに収縮する  … カルケシウム (Carchesium)
  2. 全ての柄が一緒に収縮・伸長する  … ズーサムニウム (Zoothamnium)

なお、今回のビデオでは分かりにくいですが、ツリガネムシは繊毛虫と言われるグループの虫です。頭のまわりに繊毛があります。


撮影: 1995/12 公開: 2008/03/29