多分キジラミ: Psyllomorpha

Home
Last update: 2011/04/19

一番下の黒い幼虫は、キジラミではなく「コナジラミの一種の幼虫」だろうとご教示いただきました。 (Hepota様:http://blog.tamagaro.net/?p=1197) ありがとうございました。もしかして、白いやつもコナジラミ?(2011/04/19 追記)


葉の裏に平べったい幼虫を発見


タブノキの葉っぱに大量のボツボツが発生。裏は逆にへこんでいて、なにやら虫がいる。虫が汁を吸う刺激に植物が反応し、異常な形になった模様。上の大きな写真は、その葉の裏の窪みにはまりこむようにくっついていた虫。下の葉は後で撮影したものなので、虫は見えませんけど。

face of the leaf back of the leaf

ちなみにこういうふうに虫(など)が原因のボツボツとかイボイボを "gall" 「虫こぶ」といいます。かなり派手なものも多いです。このサイトでも2件ばかり紹介していますが、この物件はよくわからないままずっと放置していました。今回、しばらくぶりに思い出して参考書を引っ張り出してみたところ、タブノキのところに "pit gall" なる文字を発見(薄葉重 19**.虫こぶ入門 八坂書房 p.***)。

ピットっていうのは穴とか窪みですから、ぴったり。これはかなり期待が持てる。そしてその虫は「タブトガリキジラミ」。ところが、Webを検索してみると確かに出てきますが、それこそ種名のリストみたいなのばかり。そもそも、「キジラミ」って何?…聞いた事がある気もするけれど…という程度の私。ということで、まずはキジラミのお勉強となりました。日本動物大百科8巻 昆虫T p.128-129, 150-156(平凡社 1998)などを参照して私がまとめたメモを次に示します。


まず、昆虫と一口に言ってもいろいろいます。そこで、チョウ目(鱗翅目)とかバッタ目(直翅目)とか、いくつかの目(もく: Order)に分けます。今回の「キジラミ」はカメムシ目(半翅目)の一員。セミとかアブラムシとかが一緒の仲間。 でも、カメムシとセミとアブラムシ?何か共通しているのか?

そんな状態でしたが、どうも「カメムシ目」とは、不完全変態で尾角はなく、「針のような長い口吻」をもち、ほとんどは植物の汁を吸うという連中らしい。なるほど、そういわれて見れば…。とは言ってもカメムシやセミやアブラムシや、それぞれ違うので、更にいくつかのグループ分けがされています。以下のような感じ。

 同翅亜目 (ヨコバイ亜目) 口吻を前にのばせない 前翅全体が膜質
 頚吻群 セミ型類6科セミ、アワフキムシ、ツノゼミ、ヨコバイ
ハゴロモ型類13科ウンカ、ハゴロモ
 腹吻群 キジラミ型類6科キジラミ最も原始的
アブラムシ型類3科アブラムシ有翅型と無翅型あり
コナジラミ型類1科コナジラミ体は粉におおわれる
カイガラムシ型類12科カイガラムシ介殻で身を固めて植物体に固着
 異翅亜目 (カメムシ亜目) 前翅基部半分が強くキチン化、先半分が膜質で翅脈が明瞭
  カメムシ、アメンボ、タガメ…

ようするに、今回のキジラミは、アブラムシ・カイガラムシなどと同じ「腹吻群」というグループの一員で、セミなどの「頚吻群」とは、針のような吻(ふん・くちさき)の位置の他、触角の形状・あしの節の数・生態などが違うそうです。ただ、肝心のキジラミがどんなのかはイマイチ不明。「最も原始的」というのはこれという特徴がないのか?

なお、最近は別の分け方もされてるようです。具体的には、頚吻群と腹吻群を亜目のレベルに昇格させるなどの変更です。英語版 Wikipedia の半翅目についての記事が一応の参考になるかと思います。 ついでに腹吻群の各グループの英名をメモしておきますと、キジラミ: jumping plantlouse(lice), psyllid(s) アブラムシ: aphid(s) コナジラミ: whitefly(ies) カイガラムシ: scale insect(s) となります。

そうか、それではどんなのがいるのか、図鑑を見てみよう…ということで見てみると、手元の簡単なものにはキジラミなんてろくに出ていません。実は、「日本動物大百科」でも、ウンカの次はアブラムシで、キジラミのページがないのです。幸い、下記サイトにかなり多数の写真が掲載されていました(すばらしい!)。でも…うーん、それこそ小さいセミみたい…。

そうです、これはみんな成虫の図。ま、普通はそうですよね。でも、今回は成虫じゃない。結局、キジラミの英名 psyllid で検索して今回の虫に似た画像を発見。それで、まぁ、キジラミでいいんじゃないでしょうか、ということになりました。たとえばこんなの。

ただこれ以上は科レベルも怪しいので、タイトルは Psyllomorpha (キジラミ型類)としました。この類はホスト(宿主=くっついている植物)によって種類が決まってることが多いそうですが。なお、上のリンクは柑橘類の病気 (Citrus Greening) を媒介するキジラミの話で、アメリカで問題になってるようです(虫こぶは別?)。

それから、ありました、キジラミ専門サイト!とりあえずリンク。


せっかくなので、他の写真もご覧に入れます。まず、虫の腹側を見たところ。足がわかりますが、口吻はどこにあるのか、残念ながらよく見えません。真ん中は、いろんな大きさの虫。右は更に若い虫。葉の網目模様と比べると、かなり小さいですね。これだけ他より一ヶ月以上遅い撮影なので、もしかしたら別物かも。

ventral view of a nymph nymphs of psyllid a small nymph

それから、黒いやつ。他の虫と一緒に撮影してるのですが、全く別物かもしれません。というのは、色もそうですし下右のように蜜?を出してたようなのです。でも、体のまわりの毛のふちどりは同じような感じです。とりあえずここに記録。何かご存知でしたら、ご教示いただくと幸いです。

black one honey dew?

最後に、この一見マイナー(本当は経済的にも重要)なキジラミにからんで、生物学的にかなり面白い話があったのでご紹介しておきます。

この細菌、そのうち細胞内小器官になっちゃうんではないか、というのは言いすぎにしても、ミトコンドリアや葉緑体が成立した過程を考えるのに非常に興味深い、という話。ふーん、このキジラミにねぇ。理研のリリースには、ここでご覧にいれたような幼虫の写真もあります。

なお、この研究の材料になったキジラミはアメリカのもので、種類は多分違います。キジラミもいろいろ、共生細菌もいろいろなので念のため。


撮影: 2002/04/19, 20, 05/29, 30 公開: 2008/04/23