ホクロじゃなかった!
先日、関東地方の某山から帰って風呂に入っていると、「あれ、こんなところにホクロあったっけ?」
腹の上の方にゴマ粒大の異物が付着しています。おかしいのは、全体でペタッとついているのではなく、一ヶ所でブラブラくっついている感じなのです。明らかにホクロではない。そして…取れません。よく見るともう一ヶ所、ベルト位置あたりにも小さい奴が。
ん?これは…もしかして例の?
落ち着かないまま風呂から出て、ルーペで見てみると足がある! これは間違いないなと思いつつ、記憶をたどって本をさがしてページを開くと、やっぱりダニですよ、ダニ。ダニの中でも大型の「マダニ」という連中。
ヤバイなぁ、これはかなり悲惨な話もある虫らしい、大丈夫か?という不安と、うーん、これはちょっと面白いかも、という好奇心とがいりまじる。 とりあえず、この際せっかくだからと気をとりなおし、写真を撮ってみました(上の写真)。
サイズはご覧の通り。皮膚に頭を突っ込んでいる様子も分かります。それに何よりも、足足足…うわー。
余談ですが、これ、自分ひとりで撮影しています(まぁ、人には頼めませんよね)。 往年の名機、ニコンのE990というデジカメ。 マクロが強力だし、レンズがくるくる回る「スイバル型」なので、変なアングルでも撮影可能。 まず、シャツをまくりあげて腹を出す。マッチ棒をテープで虫の近くに貼り付け、椅子に座る。机に固定したライトで照らしながらカメラを腹の上でかまえる。モニタをにらんでシャッターボタンを何回も押す…(とても人には見せられない)!
でも、なかなかうまく撮れたでしょ?E990、久しぶりに使ってみると反応がものすごくのんびりしてるので驚きましたが、それでもやはりいいカメラですね。
マダニの口器: 青木淳一 ダニの話−よみもの動物記− 北隆館 1968 p.54より |
それで、トップの写真から切り出したのが左の写真です。もちろん、足は8本。おしりから体液のようなものを出してますが、これは正体不明。ご注目いだだきたいのが矢印で示した部分。右の図(マダニの口器)と比べてみてください。真ん中のトゲトゲの銛のような部分は皮膚の中に入っていて見えませんが、その両脇の触角(?)のようです。
ルーペで見たときもここまでは分からなかったので、ちょっと驚きました。いや、このごろ老眼がホント進んじゃって…。
さて、写真もとって一段落すると、やっぱりこのままじゃ困る。吸血が終わると自然脱落するというので、しばらく様子を見ようかとも思って1日だけ置いておいたものの、何しろダニですから。おなかの上でダニ飼ってます、って訳にもいかないし、そもそも生きているのか死んでしまったのかも不明。それで、強制退去してもらうことにしました。
ただ問題は、上の図のように、この口器には逆向きのとげがついていて、簡単に抜けないのです。実際、風呂に入って普通に体を洗ってもしっかりくっついています。それで、ピンセットでひっぱたら、口器だけ虫の体から切れてしまいました。つまり、私の体の中には、あの「銛」が残ってしまった訳です。
なんか非常にイヤンな感じなのですが、まぁ仕方ないということで…。実際には、キズはほとんど分からない位だし、トゲが刺さったような感じもまったくありません。また、事前に消毒用アルコールをたっぷりお見舞いしてから処理してるので大丈夫だろうと思っています。ただし、個人個人の体質とか環境、また刺された虫によって何が起こるかわかりません。虫の処理をする際は、くれぐれも(イヤな言葉ですが)ご自分の責任でお願いします。なお、文献に下記の記述がありましたので引用しておきます。
一般的に皮膚科医はダニの除去に口器周辺の皮膚片を摘出する方法を採るため,十分飽血した場合は自然離脱を待つのが賢明である。
(北岡茂男.マダニ類.In 梅谷献ニ編 原色図鑑 野外の毒虫と不快な虫 p.207 全国農村教育協会 1994.)
吸着して間もない時は,指またはピンセットでひっぱてとれることもあるが,時間がたっていると口器がちぎれて残る。この場合は外科的に口器と共に皮膚の一部を切除して縫合すると早くきれいに治る。
(シュルツェマダニ. In 日本自然保護協会(編集・監修) 野外における危険な生物.p.100. 思索社 1982.)
さて、虫が取れたということで、落ち着いて拡大撮影でもやってみるか、ということで写真をとってみました。久しぶりなのでやり方を随分忘れていましたが、なんとか撮れたのがコレ。
前に書きましたが、大小の2匹いました。トップのマッチ棒と一緒の写真は大きい方の虫です。この大小の虫の関係は良く分かりません。老若なのかオスメスなのか、はたまた…。それから、両方とも口器はちぎれていますし、大きい虫はお尻のほうが壊れてしまいました(うーん残念)。
それから、虫の腹側はこんな感じ(大きい方のです)。足の付け根のあたりが目立ちます。
マダニといってもいろいろいるので、このへんをもう少し調べると種レベルまで同定できるかな、とも思ったのですが、やはりなかなか難しいようですね。アルコール漬けにしてあるので、専門家がご覧になれば分かるかとも思いますが、まぁ、楽しみにとっておきます。 手持ちの資料を見た印象では、シュルツェマダニ Ixodes persulcatus Schulze というのがそれらしい感じではありますが、シロウト的にはマダニ属の虫 (Ixodes sp.) 、というのでいいんじゃないかな、と思っています。なお、今回はまだWebは探していません。なんかちょっとコワイので(笑)。
しかし、どこでやられちゃったんだろうな。テント山行だったのが関係あるのかな?なかなか快適だったのですけど、川沿いはやっぱりまずいのか?それとも寝るとき汗かいたシャツを脱いでおいたのにたかったのか?
でも本を見ると「やぶこぎをしたら注意」とか、「山林,原野のササについていて」などとあるのでそっちなのでしょうか。今回の山はあまり人が入らない道で、橋が落ちてたり倒木が多かったりでなかなか大変だったのですが、ヤブは…それほど印象に残ってはいません。シカなど大型の動物が増えているらしいのとは関係あるかも。
どちらにせよ、こういうのにやられることもあるんだなー、ということで、皆様も十分お気をつけ下さい。青木先生の本では(1968年時点ですが)、「…筆者とて、いまだマダニに刺されたためしがない」とはあるのですが、ほかにも、ツツガムシなんて本当にヤバイやつも、いるところにはいますし。
ちなみに、考えてみれば、1回だけひどいかゆみを感じましたが、すぐ忘れる程度でした。また、痛みはありませんでした(今のところ)。
あとですね、ちょっとまだイヤなのが、マダニが媒介するらしい病原体がいろいろあるらしいことです。今後ヘンなことにならなければいいのですが…(むむむ)。