「コペポーダ」っていうのは、日本語で「カイアシ類」というグループ、大雑把にいうと「ケンミジンコ」の仲間のことです。5月の終わりに、三浦半島某所で磯遊び(じゃなかった「野外実習」)した時に採取しました。
といってもプランクトンネットを引いたとかではなくて、右の写真のように、観察用に獲物を入れたバットの海水中で泳いでいるのをG君たちが発見(さすが昆虫少年、目がイイ)。海藻周辺にくっついてたんでしょうか?。
ケンミジンコは動きが速いし、同定は難しい(というか私には無理だ)し、まぁいつでも出てくるおなじみさんなので、普通は特別に持ち帰ったりしません。が、このときはちょっと気になったので、持ち帰って撮影。
結果はご覧の通りで、「背中に十字架」とは意味深なヤツ。キリスト教圏だとなんかいわく因縁のある話でもあるんじゃなかろか?英文ページでも作ったら面白いかな、などと思いつつ、放置していたのでした。
さて、そうこうしてるうちにありがたや夏休み。このネタもせっかくだから書いておかなくては、と改めてあれこれ調べているうち、ついに出ました! "TREE OF LIFE web project" というサイトの一ページに、「おおっ」という図を発見。 しかし、いやにクラシックで綺麗な図だな、と下の方を良く見ると、
Images from Ernst Haeckel's Kunstformen der Natur published 1899-1904...
と書いてあります。ひょえー、あのヘッケルですか?そう、「個体発生は系統発生をくりかえす」(と俗に説明される)「反復説:生物発生原則」のErnst Haeckel(エルンスト・ヘッケル:1834 - 1919)。そして "Kunstformen der Natur" っていうのは "Art Forms in Nature" とか "自然の芸術的形態" などと訳されている原色博物図譜。
彼には美術的な才能もあって、この本はそっち方面でもかなり有名な、「生きているシュールレアリスムの実例」とか言われたりもしてる(アンドレ・ブルトン)美しい本です。石版刷りで、ヘッケル自筆とのこと。荒俣宏がよく紹介してるので私も存在は知ってました。現在、電子版が公開されています(素晴らしい!)。
そうですか、アレに載ってたんですか、このコペポーダは!
もっとも、模様が似てるからというようなことでコペポーダを同定なんて、そんなのは無茶な話です。他人のソラ似の可能性はいくらでもあります。全体の色とか、気になるところもいろいろあるし。
でもまぁ、そういうことは別にして、面白い出会いというかなんというか、ちょっと感激。だって、100年前のあのヘッケルの本に出てるコペポーダ(かもしれないやつ)が、三浦半島の磯にいて、それをたまたま見つけたんだもの。これはしばらくぶりのヨロコビです。
なお、説明のページを読むと、この図は Acontiophorus scutatus (Brady). のメスだと書いてありますが、学名も変わってそうですね。
最後に、横から見たところと、もう1つ、卵をもってる別個体(同じ資料からですが、十字が黒、別物みたい)の写真も置いておきます。黄色いところはやはり消化管関係?色は食い物で出るんでしょうか?
それから、例によってどろおいみじんこさんの解説ページがとても分かりやすいので、ご紹介しておきます。この類一般のことを知るにはとても良いと思います。ぜひどうぞ。