"platycladum": ひらたい枝
またまた勤め先の近所の道端で妙なものを発見。 よく見ると、植木鉢に入っているので、近所の人がここに置いたか、あるいは捨てたかした園芸ものらしいが、一見して???
いやに細長い「葉っぱ」。しかもそれに節がある。 さらに見ると、あっ、「葉っぱ」に花がついている!
「葉っぱ」に花が付くやつとしては、ハナイカダとかナギイカダは比較的有名で私も知っていました(後のほうで写真を出します)。 でも、こんなのもあるのかー。
それにしても、これはどういうグループに属する植物なんだろうか? 「葉っぱ」は結構つやつやして、シャコバサボテンをうんと薄くペラペラにしたようにも思えるが、サボテンか???うーむ…
その後数日間、資料をあれこれ眺めて悪戦苦闘。ページをめくり続け、標題の「カンキチク」であるとようやく判明したのでした。
カンキチクとは「寒忌竹」つまり、「寒さがキライな(実際はそんなでもないという話もあり)竹(のように節があって、光沢がある植物)」という名前のようです。
さて、このカンキチクですが、もちろんタケではなく、またサボテンでもなく、なんとタデ科だそうです。「蓼食う虫も好き好き」のタデ。ソバとかミズヒキなんかの仲間。これまたびっくり。
左が花のアップ(めしべ先端が3つに見える)。右は果実。
ソロモン諸島原産とのことで、「植物の世界」(79: 7-221, 朝日新聞社 1995)などでは Muehlenbeckia platyclados という学名になっていますが、この特殊な「葉っぱ」を持つこの種だけを別属にして、 Homalocladium platycladum (F.J. Muell.) L.H. Bailey というのを使うことも多いようです。
学名っていうのはこの手のブレがよくあって、ある意味では不便なこともあります。(実際は省略することも多いですが)命名者や命名年をつけるのはその辺をはっきりさせるためでもあります。上の例だと、元の名前をつけたのが (F.J. Muell.) っていう人で、別属に移したのが L.H. Bailey と言う人、ということです。 このほか、学名についてはいろいろ難しいことがあって、私なぞが簡単に解説できるような代物ではないので、この件はこの辺で撤収。
2002/09/10 追記: F.J. Muell. が最初につけた名前は Coccoloba platyclada で、これをMuehlenceckia 属にしたのは Meisn. と言う人で、Bailey はそれを更に別属に移したとのこと。
例によって参考リンクをあげておきます。陸上植物はやっぱり関心高いのか、園芸など経済的価値があるからか、Webを探すと、さすがにいろいろあります。昆虫は別として、無脊椎動物なんか比較にならない感じ。とりあえず、目に付いたのをいくつか。
- 山田農園(楽市らくじゃん)内コンテンツ「役立つ植物図鑑」(http://www.yamaen.co.jp/rakujan/zukan/pb-main.html)に、カンキチクの解説あり。
- http://www.yamaen.co.jp/rakujan/zukan/pb-info-sim.asp?kensakumoji=238
株式会社ビイクラフトのサイトの中、「当社に入荷した、ちょっと珍しい植物や他店ではあまり見かけない植物を中心にご紹介」 という "GALLERY" に、カンキチクが紹介されています。やはりそんなにポピュラーな植物ではないと考えてよいようです。- http://www5a.biglobe.ne.jp/~beecraft/framepagegallary2.htm
英語だと "Ribbon Plant", "Ribbonbush" のほか, "Centipede Plant", "Tapeworm Plant" という名があるようです。Centipede ってムカデだし、Tapeworm は「条虫」つまり、「サナダムシ植物」ね…(日本語でも、海藻にはムカデノリもサナダグサもあるから、まぁいいかぁ ^^; )- http://florawww.eeb.uconn.edu/acc_num/198500597.html (Univ. Conneticut)
http://www.plantoftheweek.org/week102.shtml (plantoftheweek.org)
で、問題の「葉っぱ」ですが、実は「本物の葉」ではありません。形態学的に言うと「扁茎」ということで、要は茎の変形です。
節があり、しかもそこから花やつぼみと一緒に小さな(本物の)葉が出ているので(左)、確かに納得。上の日本語サイトを見ると、かなり大きな葉も見られます。
なお、多年草と書いてある資料もありますが、右図のように、古い木質化してるような(丸い)枝もあるので、やはり「低木」とするのがよいような感じですが、真相は不明。
さて、前の方で書いた「ハナイカダ」と「ナギイカダ」をついでにご紹介しておきます。
左が「ハナイカダ」(ミズキ科)、右が「ナギイカダ」(ユリ科)
まず、左のハナイカダですが、この「葉っぱ」は本物の葉です。花は本来葉の付け根から出ているのですが、花の柄にあたる部分が葉脈と癒合して、葉の真ん中から花が咲く形になっている、という解釈です。
右のナギイカダの場合はもうちょっとややこしくて、この「葉っぱ」はカンキチクと同じように茎(仮葉枝)である、とされています。その理由は、この「葉っぱ」の腋に、小さな鱗片状の葉があることなのですが、このへんなかなか難しいですね。写真も古くて色がおかしいし、いずれ詳しくご紹介できれば、と思っています。
あと、こんな写真も見つけたのでメモ。"The leaves do never carry flowers." なるほど。
- マメ科のアカシア(ミモザ) Acacia cyanophylla と Acacia glaucoptera
- http://www.biologie.uni-hamburg.de/b-online/e51/acacnigr.htm
- ナギイカダと同じユリ科の Semele androgyna
- http://www.biologie.uni-hamburg.de/b-online/e53/semele.htm
実はこの辺の話は、昔勉強したはずなので、カンキチクなんかも知ってなくちゃマズイんですが、まぁ… ^^;
(参考:熊沢正夫 1979, 植物器官学. 裳華房 pp. 132-135. ほか)
「JFコード」っていうのがあるんですね。詳しくはリンクをご覧になれば分かりますが、日本で流通しているすべての花や植物にコード番号をつけ、流通などに利用するというシステムです。現在4万品種の植物がコード化されている、っていうんですが、これ面白いなぁ。
これだけはっきり「分類」の実用面が表に出てるのと、ちょっと感動というかなんというか…。ちなみに、カンキチクは22143、ハナイカダは19610、ナギイカダはなぜか2つあって、21701と19112なのでした。