Last update: 1999/04/27
数年前から、春先になるたびに見慣れぬアブラナ科植物が気になっていました。場所は東京都中野区(前の勤め先の近所)の路上です。
帰化種らしいのですが、図鑑を見てもそれらしいのが見つからない。毎年気にしながら、時期が過ぎるとなんとなく忘れる、というのを繰り返していましたが、この春、niftyserve ffield5番の皆様のおかげで、ついに正体がわかりました(特に、やまそだちさん、Asterさん、ありがとうございました)。
Sisymbrium irio L.:ホソエガラシ。右はロゼット。この状態で花をつけることあり。
上に書いてありますが、Sisymbrium irio L. 和名「ホソエガラシ」のようです。
「ホソエガラシ」とは「細柄芥子」のことだそうです。左の写真(果実の基部)を見てください。同属のハタザオガラシ (S. altissimum L.) が果実の柄が太いのに対してつけられた名前のようです(長田新称)。
私が見た資料を紹介しておきます(この資料あったのに・・・ 宝の持ち腐れ!)。
前者には、南欧原産で日本にはまだ確実な記録がない、とあります。後者では「稀」としてあり、山下埠頭で1987.5.7に採集されたとあります。しかし、ffield のAster さんによると、東京の浜松町駅近くでもこの春(1999)に見たとのことですし、10年前よりは増えているのかもしれません。私が見た場所では、少なくともこの数年は毎年出ているものの、拡大してる感じはあまりありません。また、Aster さんも地元の豊橋では見たことはないそうです。
海外では?、と学名でwebを探すと、「London Rocket」というページがありました。カリフォルニアの雑草のサイトで、「これこれ!」っていう写真が出ています。「London Rocket in Tokyo」っていうのは、そういう訳です。
それにしても「ロンドンのロケット」だなんておもしろいなあ、と思ってちょっと調べたら、いろいろわかりました。まず、rocket を小学館ランダムハウス英和でひくと、普通の意味とは別に、こんなのが出てました。
1.のキバナスズシロというのは、園芸の本では、E. vesicaria subsp. sativa になってました。エジプト時代から利用されていて、カイロ・アテネ・ローマなどで売られている、そうです(朝日園芸百科21 VI79)。でもこの写真、植物の世界67号(6-205)のやつと随分印象が違うなぁ。
2.ですが、牧野図鑑では、Sisymbrium luteum:キバナハタザオが、Hesperis属として出ています。「ヘスペリソウ」っていう和名もカッコにいれて付いてますが、これちょっとオマヌケかも。
3.はヤマガラシ属で、英名はWinter Cress。ハルザキヤマガラシが一般的な和名のようです。セイヨウヤマガラシともいうそうです。
ついでに London の方も見たら、
1. London plane: Platanus acerifolia
2. London pride: Saxifraga umbrosa
の2つが出てました。後者は「またSt. Patrick's cabbage」とあるのですが、そちらを見ると「London pride」となってます(笑)。
次に、原色日本帰化植物図鑑(長田武正、保育社1976)に英名が出ているので、関係あるやつをまとめてみます。
学名 | 和名 | 英名 |
---|---|---|
S. altissimum | ハタザオガラシ | Tall Rocket, Tumbling Mustard |
S. irio | ホソエガラシ | London Rocket *1 |
S. officinale | カキネガラシ | Hedge Mustard |
S. orientale | イヌカキネガラシ | Eastern Rocket |
S. luteum | キバナハタザオ | *2 |
Erucastrum gallicum | オハツキガラシ | Hairy Rocket |
*1:この図鑑にはのってない。Webで英名が判明。 |
それから、False London Rocket っていうのもあるんだそうな(Sisymbrium loeselii :Tall Hedge Mustard)。これは、フィンランドのサイトにあるページでみつけました。ここにはSisymbrium属の情報(主に名前)がいろいろ書いてありますので、さらに興味ある方はどうぞ。
いろいろあるもんですが、ちょっと気になったのは、植物の世界67号(6-195)の S. orientale:イヌカキネガラシの解説に「ロンドンで第二次世界大戦の焼け跡に大繁殖して話題になった」とあることです。
London Rocket はどうだったんだろう?
なんで、「ロンドン」ていう地名が付いてるのか、不思議なんですよね。上にも書いたように、名前にロンドンが付く植物が他にないわけではないのですが、ロンドン空襲といえばナチのV-2号。まさにロケットですよね。それに関係あるってことはないかなあ。それ以前からの名前だろうか?駄洒落なんて発想はないのか?あってもそんな気分にはならないか?(とギモンは続く・・・)
ちょっとLondon Rocketから話がずれますが、日本でも戦後、いろいろ記録がでています。以前、帰化植物がらみで興味を持ち、いろいろコピーをとったはずなのですが、今ちょっと整理ができてないので、ここでは2つだけ紹介しておきます。
さて、この手の話も面白いんだけど、花の話です。
山口純一さん(同じくffield)が現地で観察して下さり、「同花受粉をするのでは?」、とコメントをいただきました(ありがとうございます)。
写真はどちらも同じ程度の若い花です。左は上から見たところで、おしべが6つあるのがわかります。右は、横からみたところ。めしべの先端(柱頭)とおしべの葯がほぼ同じ高さになっているのがわかります。この写真ではまだ花粉は付いていない模様ですが、いかにも受粉が起きそう。このあと、めしべが伸びて長い果実になります。
作物のアブラナ(Brassica)などでは「自家不和合性」があるらしいのに、面白いですね。もちろん、こっちは別属だし、いろいろ植物の都合があるんでしょうね。「菜の花からのたより」(日向康吉、裳華房ポピュラーサイエンス 1998)という、この話の本を買ったのですが、まだちゃんと読んでないので、勉強したらまた書きます。
撮影: (film) 1996/02/12, (d) 1999/03/01, 04/26